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地域の活力守る「連携中枢都市圏」さっぽろ圏域の挑戦企業と積極連携し活路

令和3年8月26日

第1回さっぽろ連携中枢都市圏関係首長会議(=札幌市提供)

 人口減少と少子高齢化が進むなか、地域の活力を維持できるのか―。強い危機感を背景に、全国で「連携中枢都市圏構想」が進んでいる。一定以上の規模を持つ指定都市や中核市などが近隣市町村と「圏域」をつくり、一丸となって都市機能や経済力を維持・強化する試みだ。広島、熊本、北九州、静岡など34圏域が取り組んでいる。その中から、圏域人口約260万と最大規模の「さっぽろ連携中枢都市圏」(さっぽろ圏域)の挑戦を紹介する。

 さっぽろ圏域は、全国に20ある指定都市の中で人口4位の札幌市(約197万人)を中心に、近隣の小樽・岩見沢・江別市、当別町、新篠津村など8市3町1村で構成する。2019年3月、中長期的な圏域の将来像や、将来像の実現に向けた具体的な取り組みを掲載した「さっぽろ連携中枢都市圏ビジョン」を発表した。

さっぽろ圏域全体図(=札幌市提供)

若者を引き付けるまちに

 圏域の最大課題は、将来を担う若者の流出を食い止め、道外からの人口流入を促すことだ。大学卒業後や就職後早い段階で、東京を筆頭とする道外へ転出するケースが多く、20~24歳の道外転出超過は年約2千人にのぼる。
 今春道内の大学を卒業し、札幌市に本社を置くアドレが運営する体操教室「ジュンスポーツクラブ」に就職した水野愛菜さん(22)は「友人の中には『やはり大手がいい』と東京に行く子もいた」と振り返る。
 特に二十代前半の若者を引き付けるため、さっぽろ圏域は、企業版ふるさと納税などを原資とする奨学金の返還支援制度を創設。圏域内の企業に就職・居住した場合、年間最大18万円を3年間助成する。
 約80人が支給対象に内定しており、水野さんもその一人。スキー技術選の現役選手でもある水野さんは「奨学金が返せずやりたいことを諦める人もいるが、自分は安心して競技を続けられる」と感謝する。出身は愛知だが、ずっと北海道に住み続けるつもりだ。

体操教室で体操を指導する水野さん(=ジュンスポーツクラブ提供)

 さっぽろ圏域の目標は、人口減少のペースを緩やかにし、40年時点の圏域人口を推計より5万人多い240万人とすること。奨学金返還支援のほか、オンラインによる合同企業説明会や移住促進イベントを開催している。

企業と連携し、地域を潤す

 石狩平野の中央に位置する人口7400人の南幌町。田園風景が広がるこの町に2021年10月から、派手なラッピングを施したバスが巡回する。予約場所を回りながら目的地へ向かうオンデマンド型コミュニティーバス「あいるーと」だ。
 バスの外観には、人気バーチャル歌手・初音ミクを手掛けたクリプトン・フューチャー・メディア(札幌市)のキャラクター「ラビット・ユキネ」と同町のキャラクター「キャベッチ君」のイラストをあしらう。車内には、イオン北海道(同)が提供する非接触型のキャッシュレス決済端末「バスWAON」を搭載する。
 同町の大崎貞二町長は「2例とも、町単独では実現できなかった。圏域に入れていただいたからこそ、道が開けた」と感謝している。

愛らしいキャラクターのラッピングを施したコミュニティーバス(=南幌町提供)

 コンビニ大手のセブン‐イレブン・ジャパンは2019年、さっぽろ圏域と締結した「まちづくりパートナー協定」に基づき、圏域内の二つの食材を活用した商品を開発し、道内全域の約千店舗で販売した。
 長沼産のブロッコリーを使ったサンドイッチ、千歳産のジャガイモ「インカのめざめ」を使ったポテトサラダやチーズ焼きなどだ。ともに好評で、ブロッコリーサンドは圏域形成後、毎年販売している。

 12市町村がひと固まりになり、圏域の窓口を札幌市に一本化することを企業側はどう受け止めているのか。
 イオン北海道の佐々木晃一エリア推進部長は「札幌市という圏域全体の窓口があることで、各市町村と個別に連携するよりも、効率・効果的に、複数市町村に渡る地域貢献をすることができる」。同社は運転免許証を自主返納した圏域内の高齢者に電子マネーGG・WAONを無料で進呈したり、自宅配送料を減額したりもしている。

 セブン‐イレブン・ジャパン商品本部の佐藤賢一・北海道地区シニアマーチャンダイザーは「北海道にはさまざまな食材の情報があるが、品質をはじめ正確な情報を素早く入手することが課題。さっぽろ圏域は情報提供に熱心な上に、内容が正確で助かっている」と話す。全国34圏域の中で、同社がパートナー協定を結んでいるのはさっぽろ圏域だけだ。

過去に販売されたさっぽろ圏域の食材を活用して開発したポテト&チーズ(左)
ブロッコリー&チキン(中)チーズ焼き(右上)ポテトサラダ(右下)(=セブン‐イレブン・ジャパン提供)

住民サービス向上にも寄与

 圏域として取り組む施策は、教育や福祉・医療分野など多岐に渡る。
 その一例が、義務教育を十分に受けられなかった人の学びの場となる公立夜間中学。札幌市は2022年4月、道内初の夜間中学を開設する。市内だけでなく、圏域内から生徒を受け入れる方針だ。
 圏域内には学齢を経過した未就学者が3050人(10年国勢調査)おり、うち約千人が札幌市外に居住している。南幌町の大崎町長は「当然、町単独では提供できないサービス。それを町民が受けることができる」と高く評価する。このほか「救急安心センターさっぽろ」の広域活用、地域公共交通の維持・向上などにも取り組んでいる。

 「連携中枢都市圏構想」は核となる自治体の役割が大きく、予算配分も含め中心となって取り組みを進める。このため、近隣自治体が不満や警戒感を募らせるケースもあるが、大崎町長は「自立して生きるためにもさまざまな資源を共有し、行政コストを下げて町民サービスに結びつける。言葉は悪いが、うまく圏域の取り組みを利用して町や圏域全体の魅力向上につなげたい」と考えている。

南幌町の大崎貞二町長(写真左=南幌町提供)、
新篠津村の職員と打ち合わせる札幌市の森さん(写真右の左=札幌市提供)

 共存共栄の思いは、連携中枢都市として先頭に立つ札幌市も同じだ。「近隣市町村には、従来の行政区域を越えてできた圏域の枠組みや、札幌市の機能をどんどん使ってほしい。それが圏域、ひいては北海道全体の活性化にもつながる」と圏域担当の森拓真さんは言う。
 豊穣な大地と260万人のスケールメリットを生かし、積極アピールで民力も取り込みながら、活力あるふるさとを未来につなごうとしている。

※指定都市とは

地方自治法で「政令で指定する人口50万以上の市」と規定されているが、実際には、概ね70万人以上の人口で、道府県と同等の行財政能力を有し、全国に20市が政令による指定を受けている。

指定都市市長会について

指定都市市長会は、2003年12月に、「指定都市の緊密な連携のもとに、大都市行財政の円滑な推進と伸張を図ること」を目的として発足した組織で、現在、全国20の指定都市で構成している。

主な活動として、各市の連携を図りながら、地方分権改革の推進や多様な大都市制度の早期実現に向けて、政策提言などを行っている。

指定都市市長会は20年11月、 連携中枢都市圏や三大都市圏で地域の中核を担う指定都市が、人口減少が深刻化し高齢者人口がピークを迎える40年頃に向けて、近隣市町村と連携しながら、地域に必要な行政サービスを提供し続けるようにするため、1連携中枢都市圏制度等の法定化、2地域連携を促進する新制度の創設、3早急な財政措置などを実現するよう総務省に提言した。

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